技術×教育の可能性

「技術×教育の可能性」『市民タイムス』2017年6月20日。

技術は社会を変える。いくつかの技術は、「創造的破壊」を伴いながら社会変革をもたらす。インターネットに代表される情報通信技術は、そうした技術の典型例である。こうした、情報通信技術が教育の世界に入ってくるとどうなるのであろうか。最近では、大学教育の世界でも、「教育の現場にどのような技術を、どのように導入したらよりよい学びにつながるのだろうか」という問いが語られる機会も増えている。入学者全員にコンピュータやタブレット型端末を支給して、活用を求める大学もある。

とはいえ、教育に関して言えば、「改革」の波のスピードは概して遅く、20世紀と変わらない教育スタイルが、21世紀の今も踏襲されていることが多い。教員が教壇に立ち、学生たちは講義を聞いてノートをとる。試験前になると、一夜漬けのような勉強法で暗記をし、試験当日、解答用紙にその内容をはき出す。インターネットで調べれば一瞬で答えにたどり着けるような知識を、試験の時だけインターネットを取りあげて答えさせるということが、果たして今の時代に本当に求められている能力なのか疑問も残る。

昔ながらの講義スタイルからの転換に関しては、「ティーチングからコーチング」がキーワードとなっている。教師が主役のティーチングではなく、生徒こそが学びの主役であって、教師はスポーツのコーチのように、寄り添い、モチベーションを維持させ、アドバイスを与える存在に徹するという考え方である。

同じことを教育でやるために「反転授業」なる試みも行われている。生徒は、あらかじめインターネットを通して従来型の講義を教室外で好きな時間に受ける。生の講義と違って、分からない部分は何度でも巻き戻して確認できるというメリットもある。教室では、各自が問題を解き、疑問があれば手を挙げてコーチ役の教師からアドバイスを受ける。宿題を教室で、講義を教室外で受けるので「反転」というわけである。

英会話にしても、教師のコストが安いフィリピンとインターネットを介したテレビ電話のようなシステムでつなぎ、フィリピン人講師とのマンツーマン授業を安価(25分のレッスン1回につき200円程度)で受けられるサービスもはじまっている。柔軟な発想で、技術と教育とを掛け合わせるという試みの先には、次の時代に求められる能力を子供たちの中から引き出し、伸ばすための無限の可能性が秘めていそうである。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)