グローバル化の向こう側

「グローバル化の向こう側」『市民タイムス』2018年6月5日。

時代を示す言葉として「グローバル化」という用語は多用されている。一昔前はそうだったかもしれないが、このところ潮目が変わりつつあるというのが私の見立てである。グローバル化とは、一般的に人、モノ、金、情報の国境を越えたやり取りが活発化していく様子を指すものと考えられている。自由貿易の推進は、先進国首脳会議でも世界貿易機関(WTO)の会合でも繰り返し論じられ、関税の引き下げや撤廃が指向されてきた。こうしたグローバル化は、全世界を均質にしてしまい、ローカルな文化を破壊するとして、「反グローバル化」を掲げたデモ運動も盛んに行われてきた。

ところが今世界を見回してみると、イギリスがEUからの離脱を決め、アメリカも関税を引き上げる方針を打ち出している。グローバル化で低くなったはずの国境の壁が、今再び復活しつつあるようにも見える。「反グローバル化」というよりも「グローバル化の逆流」が起こり始めている。これからの時代を考えるには、「グローバル化のその先」「グローバル化の向こう側」に意識を向ける必要がある。

先日、タイ北部の街チェンマイを訪問する機会に恵まれたが、そこで出会ったスローフード運動の担い手たちは、「グローバル化の向こう側」をすでに生きはじめているように感じた。スローフード運動は、マクドナルドなどの「ファストフード」ばかりが席巻する世界へのアンチテーゼとして生まれた。始まりは「反対運動」の様相を呈していたが、チェンマイで出会った人びとは、いい意味で肩の力抜けており、対立の担い手としての「戦闘姿勢」を感じることがなかった。自然体で、当たり前のものとしてスローフードの世界を楽しみ、レストランやカフェを通してその価値を人びとに広げようとしていたのである。

彼らがグローバル化の敗北者であるかといえば全くの逆である。外国での生活も、バンコクでのキャリアもあり、英語も自在に操る。大都市でグローバル企業で働こうと思えばいくらでも仕事があるにもかかわらず、あえてチェンマイに住むという選択をしている。チェンマイの魅力を尋ねたところ「都市の文化がありながら自然との距離が近いこと」だという答えが返ってきた。バンコクでは得ることの出来ない、ライフスタイルがここでは可能だという。誰もが大都市を目指した時代は終わりはじめているということだ。世界は転換点を迎えている。いよいよ信州の時代なのではなかろうか。