自然と遊ぶ

「自然と遊ぶ」『市民タイムス』2018年4月4日。

先日、乗鞍に行って来た。家族でスノーシューを楽しむためである。もう使用されていないスキー場にお邪魔し、ゲレンデを登り切り、スノーシューを外し、童心にかえったつもりで、大きめのビニール袋をお尻に敷いての「尻滑り」にも興じた。スノーシューが優れているのは、「自分で進む道を作ることができる」点にある。道路を外れ、少し林の中を歩くだけで、簡単に「冒険感」を得ることができる。

筆者は、常々、これからの時代はあらゆる意味で「自然との距離感のバランス」が全てだと言っている。都市も、生き方も、遊び方もである。松本エリアの資産は、変化に富んだ自然との距離が近い点にある。観光資源にも、自分たちの遊び場にもなる。しかも、多くの場合「無料」である。

「自然と遊ぶ」という点に関しては、ニュージーランドでの経験が大いに勉強になった。この国の環境保全局は、「アウトドア大国」と呼ばれるニュージーランドの資産である自然の保護・保全を仕事とする政府機関であるが、「自然と遊ぶことを通して自然を守る」というアプローチを採用している点が興味深い。保護や保全と聞くと「立ち入らない」ことで自然を守ろうという発想になりがちであるが、ニュージーランドでは「適度に入らせることで自然の素晴らしさを体感してもらい、人びとの環境保護意識を高める」ことで、その目的を達成しようとしている。

カギとなるのは「体験の質(quality of experience)」という概念である。「自然の素晴らしさに感動」してもらうことがその先の保護につながるという考え方なので、最高の体験をしてもらうことに余念がない。たとえば、トレッキングコースでの入場制限である。時間差で入場させ、限られた区間に限られた人数しかいない状況を意図的に作り出す。どんなに素晴らしい自然であっても、人でごった返していては「体験の質」は半減してしまうだろう。雄大な自然を独り占めした体験は、きっと人びとの意識の変化をもたらすことになるに違いない。

「自然と遊ぶ」のは、何も特別な場所でなくてはいけないという必然性はない。冒頭に紹介したスノーシュー体験のように、自然環境豊かな松本エリアでは、どんな場所でも「遊び場」になり得る。「自然との距離感のバランス」が求められるこれからの時代において、お金をかけずに「自然と遊ぶ」能力は、自然とのつきあい方を体得する上で重要な資質となるであろう。