自由と安定で揺れるイラン

「自由と安定で揺れるイラン」『市民タイムス』2018年3月5日。

日本の報道で取りあげられることは少ないが、イランでは、今、断続的な反政府運動が起きている。中東は「アラブの春」以降混迷を極めており、この先イランが不安定化することになると、地域も世界も大きく揺さぶられることになる。原油輸入の9割近くを中東に依存する日本も、無縁ではいられない。

イランの反政府運動では、情報化時代の現代らしく、ネットが積極的に活用されている。中でも目立つのは、「女性たちの声」である。イランでは、ヒジャーブ(イスラーム教徒の女性が髪の毛を隠すためのスカーフ)の着用が義務とされている。外出時には、信仰に関わらず全ての女性がヒジャーブで髪を覆わなくてはならない。違反すれば宗教警察によって、咎められる。そんなイランで、今、女性たちが抗議の意味を込めてわざとヒジャーブを外し街頭に立つという、非暴力の反政府運動が広がっている。

この運動を始めたのは、アメリカに住むイラン人ジャーナリスト、マシー・アリネジャードである。彼女は、「私の秘められた自由」(My Stealthy Freedom)と名付けられたサイトを運営し、ソーシャルメディアでも積極的な活動を展開している。何が秘められた自由なのかというと、取り締まりをする宗教警察の目を盗んで、外でヒジャーブを外し、髪の毛全体で心地よい風を受けるといった種類の自由である。彼女のサイトには、そんな「秘められた自由」を享受している女性たちの写真がイラン国内から次々と送られている。同様の写真は、ソーシャルメディアでも拡散され続けている。

この運動は、ヒジャーブの着用そのものに反対しているわけではない。運動のポイントは、ヒジャーブを着用するか否かの判断は、政府に強制されるべきものではなく、一人ひとりの女性たちが自分の意思にしたがって決めるべきものだとしている点にある。アリネジャードによれば、これは、女性の「自由」と「人権」と「尊厳」の問題なのである。

もっとも、この運動の成功がイランに明るい未来を約束するとは限らない。確かに強権的な政治は、自由や尊厳といった価値を犠牲にするかもしれないが、国内秩序を保ち、安定をもたらす力ともなる。実際、「アラブの春」で長期独裁政権を倒したエジプトは、つかの間の自由を手に入れたものの、その後の混乱に苦しめられている。今、イランが直面しているのは、ある意味で「自由」か「安定」かという究極の選択でもある。