不況にあえぐ民主主義

「不況にあえぐ民主主義」『市民タイムス』2017年10月29日。

今、世界中の政治学者が注目しているテーマに「民主主義の不況論」というものがある。言い始めたのは、民主主義論で有名なラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学教授)である。ダイアモンドは、世界各国の民主主義度を数値化して示す国際NGOのフリーダムハウスのデータを調べ、過去、最も民主主義度が高かったのは2005年であり、2006年以降は数値が年々悪化傾向にあることを指摘している。

確かに、このところ世界各国で、これまでの経験からは予測できないような政治現象が相次いで起こっている。イギリスは国民投票によってEUからの離脱を決定し、アメリカではドナルド・トランプという政治経験のないビジネスマンを大統領として選出した。フランスでは極右というレッテルを貼られるような政治家が、大統領選で最後の2名にまで残り、スペインのカタルーニャでは独立運動によって中央政府との関係が急速に悪化している。

これまで、政治学者の多くは、先進民主主義国のように民主主義が「街で唯一のルール」としてしっかりと定着したような国で、民主主義が失われていくような事態は想定してこなかった。ところが、いくつかのデータは、ある種の「警戒信号」を発している。世界価値観調査のデータは、「民主主義国に暮らすことが必要不可欠だ」と答える人の割合が、若い世代ほど低くなっているばかりか、民主主義的な政治システムによって国を統治することが、「悪い」ないしは「非常に悪い」と答える人が、ヨーロッパでもアメリカでも増加していることを示している。特にアメリカでは、1995年当時と2011年当時とを比較すると、すべての世代にわたって民主主義を「悪いものだ」とみなす人が倍以上に増加している。さらに、アメリカ、スペイン、韓国、台湾などでは、「選挙を気にする必要のないような強いリーダー」を望む人びとが、ここ20年で急激に増えている。

世界的に見て経済状況もさえないが、その裏側で民主主義も「不況」にあえいでいる。この状況を逆手に取ろうとする権力者は、「強いリーダー」を演じつつ、民主主義的な諸価値を侵食しようとするかもしれない。厄介なことに、民主主義の不況は一見してそれとわかりにくい。本当に大切なものは、失ってみてはじめてその価値が分かるという。民主主義をめぐって、そんな経験をしないためにも、先進民主主義国の国民は今一度政治と向き合い直す必要があるだろう。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)