「走るコンピュータ」時代の到来か?

2018年のアメリカ高級車市場で最も販売台数が多かったのは、テスラであった。高級車の代表格であったBMW、メルセデス、レクサスなどを抑えて、圧倒的な1位を記録した。この結果は、人びとの車に対する捉え方が変化しはじめていることの現れと考えられる。携帯電話の世界で、フューチャーフォン(いわゆるガラケー)からスマートフォン(スマホ)に主役が移ったことと同じことが、車の市場でも起きているということだ。

フューチャーフォンとスマートフォンは、どちらもフォン(電話)という名前が付いているものの、スマホを電話として捉えていては本質が見えてこない。フューチャーフォンが、「多少はネット利用もできる電話」であるのに対して、スマホは、「電話もできるコンピューター」である。両者の違いは、新しい機能の追加方法にも現れる。スマホに新しい機能を追加するためには、新しいソフトウェアを開発・配布し、ユーザーにダウンロードしてもらえばよい。ところが、フューチャーフォンでそれはできない。新しい機能が欲しければ、新機種(ハードウェア)を新たに買い直す必要がある。

同じことが車でも起きている。テスラ車はスマホなのである。だから、たとえば、このようなことも可能である。あるエリアでハリケーンが迫っているという情報がある。車で避難しなくてはいけない可能性がある。その場合大切なのは、パワーよりも、どの位長く(遠くまで)走ることができるかである。テスラ社は、当該エリアのテスラ車向けに、バッテリーを長持ちさせるための「緊急用ソフトウェア」を無線で配布する。こうして必要な時に、必要な機能を、車が獲得することになる。

言うならば、テスラ車は、スマホにタイヤとハンドルをつけたようなものである。スマホが「電話もできるコンピューター」ならば、テスラ車は「走ることもできるコンピューター」といったところだろう。日本では、テスラ車の「電気自動車」部分を強調するきらいがあるが、エコだから売れているということではなく、本質はもう少し別のところにある。

日本の電機メーカーには、世界最高水準の優れた技術を持ちながらも、スマホ時代をリードしきれなかったという悔しさがある。今、同じレベルでの変化が、車の市場で起きようとしている。この「新しい変化の波」に、日本の車メーカーは、どのような答えを示すことができるのか。世界の変化は、私たちの想像よりも激しく大きい。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)