デジタル時代の「連帯」と信州パワー

「信州味噌が食料廃棄のピンチなんです」と、松本を中心に一緒にプロジェクトを手がけている友人から、LINEグループにSOSメッセージが投稿された。よく聞けば、八ヶ岳を臨む富士見町で70歳を超えるような方々が、畑の土作りからはじめ、無農薬、遺伝子組み換えなしの大豆を育て、地元の手作り米麹を使って、全部手作りで丁寧に仕込んだ味噌が大量に樽に残ったままだという。9トンほど仕込む味噌は、例年、イベントや道の駅等での販売で9月には完売だったところ、今年はまだ2トンも残っているとのことだった。次の年の味噌を仕込むためには、樽を空にしなくてはならない。このままでは、信州の誇る偉大な発酵食品である信州味噌が、大量に「食料廃棄」になってしまう。

このメッセージをもらってからのグループの動きは速かった。通販サイトを通してまずは自宅用に購入した後、それぞれが、自分なりのメッセージを添えて、フェイスブックなどのソーシャル・メディアを使って協力を呼びかけた。筆者自身も微力ながらも協力したいと、フェイスブックでメッセージを投稿したところ、日本全国の友人たちが「ちょうどお味噌買おうと思っていたタイミングだったんです」などのメッセージと共に、応援購入をしてくれた。投稿を見た地元企業の経営者や飲食店のオーナーたちが、個別に「協力できることはないか」とメッセージをくださった。はじめにSOSメッセージをくれた友人も、フェイスブックにて協力依頼の投稿をしていたが、この原稿執筆時点で、実に906件のシェアが行われていた。こうした、助け合いの心をベースとしたデジタル時代の人びとの「連帯」の結果、メッセージ投稿から1日で「即日完売」となった。

こうした現象は、筆者も現地フィールドワークを繰り返して研究してきた「アラブの春」を思い出させる。その後の研究成果によると、近年では、ソーシャル・メディアは、人びとの「連帯」よりも、むしろ「分断」を促す方向に作用しているという懸念が指摘されている。実は、筆者も同じような見立てをしているが、だからといって「連帯」の芽がなくなってしまったわけではない。特に、地域やコミュニティを共有する人びとの「連帯」とは相性が良いと思っている。困っている人びとに共感し、実際に行動に移す人びとが、信州にはたくさんいる。経済合理性が幅をきかす世の中で、共感をベースとしたコミュニティを信州は着実に育みつつある。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)