Less is More

「Less is More」『市民タイムス』2017年2月4日。

「ミニマリズム」という考え方がある。彼らは、所有物を最小限にしようとする。本当に、必要なものだけを厳選して所有し、必要のないものを積極的に手放そうとするのである。そういう人々は、「ミニマリスト」と呼ばれている。

ミニマリストたちの生活は、シンプルである。部屋も、時として殺風景なくらいに何もない。服も必要最小限しか、所有しない。そのかわり、手元に残すものは厳選する。引っ越しだということで荷物をまとめるにしても、スーツケース1つあれば十分という人までいる。

ミニマリストだと胸を張って言える人は、まだまだ少数派かもしれないが、ミニマリズムの思想に共鳴する人々は増えている。それは、行き過ぎた消費社会に対する、揺り戻しの運動でもある。新たにものを手に入れることは、豊かさの象徴であった。他の人が持っていないものを持っている人に対して、羨望のまなざしが向けられた。より大きく、より多く、より速くと、人々の暮らしも社会も「もっと、もっと」と常に何かを追い求めていた。だけど、本当にその先に幸せや豊かさがあったのだろうか、と立ち止まる人が増えているのである。

どれだけ多くのものを手に入れられるかが競われていた時代から、どれだけ多くのものを手放すことができるかが競われる時代がはじまりつつある。「大きいことはいいことだ」という価値観から、「スモール・イズ・ビューティフル(小さいことは美しい)」という価値観への変遷でもある。「Less is More(より少なくすれば、より豊かになれる)」という表現もある。「過剰なこと」は、あらゆる面において格好悪いことの代名詞という時代になりはじめている。

これは、ものだけでなく、情報についても同様である。情報が少ない時代にあっては、新しい情報をどんどんと収集していくこと、新たに知ることは価値であったが、今のように情報が溢れすぎている世の中では、いかに不必要な情報を遮断するかの方がはるかに価値が高い。

手放すことで、手に入るものもある。その代表例が、時間である。世の中にはお金で買えるものと、買えないものがある。何を持って、何を持たないか、という選択は、24時間という限られた時間をどのように使うかという選択でもある。「Less is More」とは、考え方であると同時に、生き方そのものなのである。そう思い直して、身の回りを見回してみると、新たな豊かさに出合えるのではないだろうか。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)