アジアン・パワー

「アジアン・パワー」『市民タイムス』2018年9月11日。

アジアの時代と言われて久しい。背景には急速な経済発展と人口増加がある。世界には約70億人が暮らしているが、そのうち約6割はアジア地域に暮らしている。次に多いアフリカとその次に多いヨーロッパが、共に10%強なので、いかに「アジア人」の割合が突出しているかおわかり頂けるだろう。経済的に見ても、中国、シンガポール、香港、台湾、タイ、マレーシア、インドネアなど、それぞれがそれぞれのやり方で「成長」を続けている。

ちょうど今、タイのバンコクに滞在しているが、街には溢れんばかりの観光客が押し寄せ、街全体に活気が満ちあふれている。LCC(ローコストキャリア)専用の空港もにぎわいを見せており、アジアの各都市に向けてひっきりなしに離発着が繰り返される。バンコクは、アジアにおける人とモノの移動のハブとなっており、地理的にも有利な位置にあるため、2時間以内のフライトで域内の主要都市にアクセス可能である。しかも、LCCのキャンペーンなどを使えば、そのコストも数千円に過ぎない。バンコクを拠点にビジネスを行う筆者の友人も、カンボジア、シンガポール、インド、ベトナムなどへ頻繁に出張を繰り返しており、「次のビジネスチャンス」をものにしようと精力的に動き回っている。

アジアの存在感は、アメリカでも高まっているようである。先月公開された映画「クレイジー・リッチ・アジアン(Crazy Rich Asians)」は、公開以来、全米興行収入第1位を維持し続けている。この映画は、ハリウッド映画史上初めて、監督から俳優まで全てのキャストがアジア系であり、かつ興行的にも成功しているということで世界的に注目されている。シンガポール、マレーシア、香港など、翻訳(字幕)が必要ない地域では、アメリカと同時公開されているが、先日たまたま目にしたシンガポールの情報番組によると、チケットは軒並み売り切れで満員御礼だという。

もっとも、一見元気に見えるアジアも、中国バブルの崩壊はここ数年懸念されているし、新興国の通貨危機への懸念も心配される状況が続いている。とはいえ、世界の中でのアジアが、元気でパワー溢れる地域であることも事実であろう。日本のこれからを考える上で、アジアの国々との関係がカギを握ることは間違いない。アジアン・パワーの一翼を担えるか否か、「上から目線」では通用しない。過去の栄光にすがることなく、挑戦者の気持ちで臨む必要があるだろう。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)