「今」を生きる幸せ

「『今』を生きる幸せ」『市民タイムス』2016年2月12日。

この地球上には、今、約70億人の人々が暮らしている。その中には、宮殿に住む人、想像を絶するほどの大富豪もいれば、紛争や飢餓・貧困に苦しむ人々もいる。それぞれが、それぞれの人生を引き受けながら、日々を精一杯生きている。もちろん、ほとんどの人と実際に会ったことなどないのだが、書物や国際ニュースやドキュメンタリー番組などを通して、この地球に暮らす人々の多種多様な生き様を知るにつけ、自分自身の人生について考えさせられることも多い。

人はみな、生まれてくる時には、性別も、親も、生まれる場所も、時代も、境遇も、なに一つ自分では選ぶことはできない。それぞれにそれぞれの人生がある。そして、生きていれば、時に不条理で、神様はもしかしたら無慈悲なのではないかと思わず疑いたくなるような瞬間がやってくることもある。それでも日々を生きなくてはならない。生きるとは何か、幸せとは何かという問いは、人類にとって永遠のテーマなのであろう。

この人生の難問に対して一つの回答を示してくれる映画に、最近出会った。『ギブン:いま、ここ、にあるしあわせ』(高橋夏子監督)である。監督から試写会にご招待頂いた時に知っていたのは、この映画が難病の子供とその家族を追ったドキュメンタリーだということだけであった。こう聞くと、難病の家族への支援を訴えたり、難病への社会的認知を向上させようとしたりする内容なのではと想像しがちであるが、実際に映画を観ると、こうした予測はいい意味で裏切られることになる。

この映画では、難病の子供を抱える3組の家族の日常が描かれている。もちろん、どの家族も、まさか自分の子供が難病を抱えて生まれてくるとは想像していない。突然訪れる現実に、それぞれの家族は、悩み、苦しみ、時には難しい選択を迫られることになる。映画が扱っているのは確かに3組の家族なのであるが、観ている人はいつの間にか自分自身の人生について、自分が生きていることの意味について、幸せについて考えはじめるような仕掛けが施されている。そして、観た人の多くは、「今」という瞬間をきちんと生きることの幸せを実感することになる。

残念ながら劇場での公開は、今のところ東京と大阪のみのようであるが、希望に応じて様々な形の自主上映会に対応してくれるようである。思わず笑みがこぼれ、生きることへの希望を与えてくれる清々しいラストシーンを楽しむためにも、一度ご覧になってはいかがだろうか。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)