「変わる時代」に変わり続ける

程度の差はあれ、人はみな、変化に対して、不安や怖れを感じる。もしも、不安や怖れを感じない変化があったとすれば、それ自身大して意味のある変化でないことが多い。逆に言えば、現状を変えようとする何らかの変化に挑戦しようとする時に、不安や怖れを感じるのであれば、何か意味のあることに取り組もうとしている心のサインだと受け止めた方がいい。

変化にリスクはつきものである。何か新しいことをはじめようというのであるから、当然失敗する可能性もある。少しでもリスクを減らすために、(これまでうまくやってこれたのだからと)現状維持が最善だという考え方もある。確かに、ある程度の年数を耐え抜いてきたやり方や考え方には、それなりの理がある。しかし、そこには条件がある。「周囲の環境変化が少なければ」というのがその条件である。

ある程度長い時間軸で社会を振り返ってみると、社会には安定期と変動期があることがわかる。現状維持や前年踏襲戦略は、安定期にはそれなりの確実性を持って社会に利益をもたらす。ところが、変動期や激動期には、「ピント外れ」になってしまう。変動期における最大のリスクは、「変わること・変えること」よりも、むしろ「変えないこと・変えられないこと」にある。

ここ数年、行政の仕事に関わらせて頂いている関係で、鹿児島県のいちき串木野市を頻繁に訪問している。優れた芋焼酎の造り手が集まっていることでも有名なこの街で、130年以上の歴史を誇る、とある酒蔵の杜氏さんとの対話が印象的だった。一言でいえば、「変えないために、不断の努力で変え続けている」というのである。昔の焼酎が持っていた、いい意味での「芋焼酎らしい芋のパンチ力」を、この蔵の看板ブランドで現代人に感じてもらうためには、昔の造り方を忠実に守っているだけではダメだという。なぜなら、現代人は、洋食やスパイスのきいたエスニック料理も含め、昔の人とは食生活や味覚が大きく変わっているためである。時代に合わせて「変え続ける」努力をしているからこそ、お客様に「昔からの変わらなさ」と老舗酒蔵ならではの「安心感や安定感」を提供できている。

今、世界は、あらゆる分野で「変動期(というよりは激動期)」に突入しはじめている。もしも、大切なものを変えずに保持したければ、変わり続けなくてはならない。人も、組織も、都市も、国家も同じである。今必要なのは、変化に向けて新しい一歩を踏み出す勇気だと思う。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)