「深いところ」から考える

この世界は、素晴らしい。基本的に、そう信じている。とはいえ、個別具体的なレベルでは、課題が山積みなのも事実である。全世界が引き続きパンデミックに苦しめられているし、この感染症により様々な形で人々が命を落としている。地球環境問題も、エネルギー問題も、拡大し続ける経済格差の問題も、地域紛争も、ジェンダー問題も、その他諸々、世界には未解決な問題があふれている。何からどう手をつけていいのか、サッパリわからないと途方に暮れる気持ちも良くわかる。だからといって、放っておくわけにもいかない。「次の世代」に、少しでも良い状態でバトンを渡すことは、現世代を生きるわれわれに課された責務であろう。

こんな時に事態を好転させるための第一歩として役立つのが、「システム思考」と呼ばれる考え方である。ある事象(問題)が、それ単体で問題になっていることも、何か1つの原因から発生していることもほとんどない。現実世界は、複数の事柄が様々な形でつながり、互いに影響を及ぼしあいながら動いている。ある問題の解決になると思って手を施したら、別のところで新たな問題を引き起こしてしまう現象の背後には、こうしたシステムや仕組みが関係している。

だから、システムや仕組みの理解が必要だということになるが、これには「深い思考」が欠かせない。この時によく使われるのが「氷山」のたとえである。海面上に見えている氷山は、氷山全体のごく一部に過ぎず、海面下の部分はそれよりもはるかに大きい。目に見えている「出来事(問題)」は、海面下で見えない「システムの構造」や社会全体が無意識に前提としている「考え方のクセ(メンタル・モデル)」から派生していると考えるのが、「システム思考」である。

もう一つ大事なポイントは、「時間による変化」に対する意識である。「深いところ」から考え、全体のシステムを捉えた上で何らかの手を施したとしても、「効果は遅れて現れる」ことになる。われわれは対処すべき問題を目の前にすると、つい、「深いところ」から考える前に、単発的で散発的な手当てを繰り返しがちである。氷山の見えている部分だけをいくら取り繕っても、問題の本質的解決に結びつくことはない。手当たり次第に「良さそうなことをやる」のではなく、「深いところ」から考えた上で具体的な行動に落とし込むという作業こそが、「変革の時代」といわれる今求められていることなのではないだろうか。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)