SNSの「裏の顔」と民主主義の未来

アメリカの大統領選挙まで、1ヵ月を切った。他国の選挙であるとはいえ、世界におけるアメリカの影響力は未だに大きい。日本のような同盟国のみならず、どの国にとっても「他人事」では済まないので、世界中で報道が過熱している。今回の選挙は、「波乱含み」の選挙戦になっているが、「混乱」は投票後も尾をひくのではないかと心配されている。論点の1つが、「投票操作」という問題である。

先進民主主義国において「投票操作」などという穏やかでない言葉が注目されるようになったきっかけは、イギリスのEU離脱をめぐる国民投票であった。調査によって、どうやら「何者か」が、離脱派に有利に働くようにフェイスブックのストーリーズと呼ばれる機能を使って、有権者に働きかけを行った可能性が高いことがわかったのである。ストーリーズとは、特定の相手にのみ、24時間だけ情報を見せるといった仕組みであり、時間経過後には消えてしまう。悪意を持って使用すれば、「痕跡を残す」ことなく、見せたい相手にのみ、怒りをかき立てるようなフェイクニュースを含め見せたいものを見せることができてしまう。「広告主」として、「広告」を流すという形をとれば、友だち関係にない相手にも合法的に、フェイクニュースを見せることができてしまうのである。トランプ大統領を生み出した2016年の大統領選挙でも、同様の投票操作が行われた可能性が指摘されている。

こうした仕組みは、AIの発達に伴って、洗練されるようになっている。人々は、「自発的に」個人にまつわる情報をSNS上に投稿しており、SNSを運営する企業は、それらの個人データを利用しながら広告収入を得るというビジネスを展開している。同時に、SNS企業は、利用者にスロットマシンと同じような「中毒性」を引き出す目的でもAIを活用している。SNSは、便利であるし、時には社会にプラスの効果を与える「表の顔」がある一方で、「裏側」があることも事実である。

票の買収といった犯罪行為に手を染めなくても、お金さえあれば「SNS広告」を通して、投票行動に影響を与えることができる時代になってしまった。これは、対岸の火事ではなく、日本も無縁でない。状況変化の速さに、法制度が追いついていない。AI全盛のデジタル時代がより本格化すればするほど、一人ひとりの気高さと社会の倫理観が問われることになる。民主主義の未来にとって、重要な砦は、そこにある。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)