危機時のトップへの信頼感

WHOがパンデミックを宣言したのが、3月11日。世界は、今、未知の感染症との戦いを強いられている。「戦い」という表現は、決して比喩ではない。アメリカのトランプ大統領は、演説の中で、自らを「戦時中の大統領である」と位置づけ、「国防生産法」に基づいて自動車大手のGM社に対し人工呼吸器の生産を命じている。欧米諸国では、広い範囲でロックダウンが施行され、街はまさに戦時下のような様相を呈している。

こうした困難の中、国や自治体などのトップが、どのようなメッセージをどのような方法で発信するのかが注目されている。この戦いに臨むにあたって発せられたドイツのメルケル首相の演説、ロックダウンを始めるにあたってカメラに向かって語りかけるイギリスのジョンソン首相の演説は、日本でもSNS上で賞賛の声と共に拡散された。同様に「信頼できるトップ」として注目を集めているのが、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士と、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事である。

アメリカのウェブメディア「ビジネス・インサイダー」が全米で行った調査によると、新型コロナウィルスに関する公式な発表で最も信頼できるとアメリカ国民が考えているのは、ファウチ博士(40%が5段階評価で最高の5と評価・平均3.84)であり、次点がクオモ知事(4分の3の回答者が5段階評価で3以上の評価・平均3.29)という結果も出ている。実際に、ネットでクオモ知事の会見を見てみると、危機に際してのコミュニケーションの1つのお手本のような会見を行っている。他方、国のトップであるトランプ大統領に対する信頼は振るわない。5段階評価で、55%の回答者が1または2という低い評価を付けており、平均は2.56という結果であった。

3月末から、松本では臥雲市長による市政がスタートした。就任早々、危機対応としてのリーダーシップが求められる格好となっている。国や県の対策も重要であるが、実際の主戦場は「都市レベル」となっているのが、この感染症との戦いの特徴である。市民の健康を守ることはもちろん、地域の経済を下支えするにも、不安定な学校環境の中で子どもたちの教育を簡単にあきらめないための対策を打つにも、地域の人々の協力が欠かせない。今は、非常時なのである。そこでは、信頼できるトップの存在が重要となる。新市長のもと、協力を惜しまず地域の底力を発揮していきたい。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)