活字の底力

「活字の底力」『市民タイムス』2016年10月27日。

人類史上、今ほど情報過多な時代はない。新聞、ラジオ、テレビ、雑誌、書籍、それからインターネットと、われわれの周りは常に情報で溢れている。中でも、爆発的に情報量を拡大させたのは、インターネットである。

とはいえ、主な情報の入手先は、世代によって随分と異なる。NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」によると、20代で新聞に15分以上触れる人は、男性で8%、女性で3%と共に1割にも満たない。今の20代は、平日にテレビを見る時間も1時間30分〜2時間程度であり、60代の平均視聴時間が4時間〜4時間30分であることと比べると対照的である。他方、インターネットの利用時間を見ると、最も多くの時間を費やしているのが20代という結果になっている。新聞やテレビなど従来型のメディアに日常的に接しているのは高齢世代が圧倒的で、若者は、新聞も読まないし、テレビも見ないという状況にある。

こうした傾向は、普段学生たちと接していても強く感じられる。彼女たちは、何かあるとすぐにネット検索に頼る。少し検索すると、それらしき情報にたどり着き、その情報をもとに何かを語ろうとする。彼女たちにとって、ネットに存在しない情報はこの世に存在していないも同然なのである。確かに、「情報の量」を考えるとインターネットは圧倒的である。ただし、「情報の質」という点では首をかしげざるを得ないこともしばしばだ。

先日、私と共にシリア人女性を支援するプロジェクトを手がけている学生数名が、今月末に行われる大学祭の展示に使う文章のチェックを求めてきた。シリア紛争の経緯や現状を綴った文章であったが、文字数のわりに内容が貧弱であり、事実誤認も見受けられた。もしやと思い少し調べてみると、彼女たちが参考にしたと思われる一連の文章がネット上に見つかった。

すぐにメンバーに連絡し、いわゆる「ダメ出し」をした後で、新聞、雑誌、書籍などの「活字のみ」を参考にして書き直しの文章を提出するように促した。その結果、1週間後に再提出された文章は、同一人物によるものとは思えないほどに良くなっていた。後で聞くと、主要各紙をデータベース検索した上で、図書館にこもって過去数年間の総合雑誌のページを実際にめくりながら関連論文のコピーをとり、読み込んでいったという。ネット全盛と言われるこの時代に、ネット世代が「活字の底力」を証明した瞬間であった。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)