デジタル・デトックス

「デジタル・デトックス」『市民タイムス』2015年10月2日。

ホノルル空港から島間路線の小型機で小一時間、ハワイのカウアイ島にて少し遅めの夏休みを過ごしてきた。ホノルル空港は日本からの観光客でごった返していたが、この島まで来ると日本人の姿をほとんど見かけなくなる。

別名ガーデン・アイランドとも呼ばれるこの島は、島全体が濃い緑で覆われており、渓谷や断崖絶壁は世界的な絶景ポイントとして知られている。映画『ジュラシック・パーク』の撮影が行われたことでも有名である。今でもなんとか大規模開発を逃れているため、島内の街はどこも、昔ながらの古き良きハワイの街並み残している。慌ただしい日常から離れ、しばしの休暇を過ごすには完璧なロケーションである。

こういう場所でしばらく過ごすと、大自然を通して地球と自分とのつながりを感じられるようになり、それが実に心地よい。この感覚をさらに加速させるため、意識して定期的に行っていることを、今回の旅でも実行した。滞在中、基本的にインターネットにつながず、オフラインで過ごすのである。

インターネットが本格的に一般社会に普及するようになってから、約20年が経つ。その間、インターネット上の情報は、指数関数的に増大していった。スマートフォンの普及以降は、フェイスブックなど、人と人との「つながり」を軸としたサービスが流行りはじめ、四六時中スマホの画面をいじっている人も少なくない。

今の大人の多くは、インターネットも携帯電話もなかった時代を知っているが、いつの間にかこれら抜きの社会など想像できないほど当たり前の道具になってしまった。インターネットは確かに便利だが、その便利さと引き替えに我々は一体何を失ったのであろうか。

実は、こうした問題意識と、過度なデジタル依存から抜け出すための試みは、今、世界的な潮流となっている。たとえば、欧米の一部の人たちの間では、レストランで食事をする際にメンバー全員が入口で携帯電話を預け、食事中は目の前の人たちだけと自分の時間を共有するというスタイルが流行りつつある。また、物理的に携帯電話がつながらない場所へ顧客を連れて行く、「圏外ツアー」を企画する旅行会社も出はじめている。

「つながる」ことが当たり前になり、「つながり過ぎる」ことが弊害を生みつつある今では、「つながらない」ことが価値を持ち始めているのである。こんな話に心当たりのある方は、意識的に「デジタル・デトックス(解毒)」を試してみてはいかがだろう。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)