三ガク都らしい「日常」の姿

都市の活力は、その街に暮らし・集う人々の日々の営みによって生み出される。また、都市が輝き続けるためには、その街に関わるすべての人が、あるがままの自分を大切にしながら、幸せを感じ、健やかで安心した毎日を過ごしていることも重要である。

先日、「松本市基本構想2030市民会議」の座長として、この先10年間の松本市が目指す方向を「基本構想2030の素々案」という形で発表する機会を頂いた。「素々案」ということの意味は、この先、行政の視点からの修正、議会を構成する議員のみなさまによる修正、パブリックコメント等を経て市民のみなさまによる修正を加えて完成させるための「たたき台」だということである。

市民会議では、ますます変動が激しくなっている国際社会の現状、2008年以来人口減少が続いている日本の人口動態、エネルギー環境の変化、テクノロジーの進化など、この先に世界と日本と松本市が直面することになるであろう課題の洗い出しを含め、幅広い議論を行ってきた。

こうした議論を経て、市民会議が重視したのが、「右肩上がりの成長モデル」を前提として21世紀の松本市の姿を考えるのではなく、「松本の地域特性を最大限に活かした循環型社会モデル」の追求をしながら、次の10年間で何を目指すのかという視点である。これは、成長も豊かさもあきらめるということを言っているのではない。循環型社会には、こうした社会であるからこそ実現可能な成長の姿があり、豊かさがある。

その上で、市民会議が、この先10年のテーマとして掲げたのが三ガク都らしい「日常」である。冒頭で触れたように、都市の活力は、その街に暮らし・集う人々の日々の営みによって生み出されるし、都市の主役は、その都市に関わる一人ひとりだと考えるからである。松本市では、これまでに増して人々が日常的に、自然豊かな環境に感謝しながら日々自然とふれあい(岳)、生活の中で文化・芸術にも親しみ(楽)、共に生涯学び続ける(学)人々であふれている。そんなコンセプトである。

こうした日常が、世界に誇るべき山岳地域、数々の文化・芸術イベント、旧開智学校に代表される学びの文化財をしっかりと下支えすることになれば、三ガク都松本は、今以上の輝きと魅力を兼ね備えることになるのではないだろうか。先人たちから受け継いだ松本の松本らしさにさらに磨きをかけ、笑顔と幸せがあふれる松本市を「次の世代」に贈っていきたい。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)