空港のある街まつもと

信州まつもとには、「信州まつもと空港」がある。だから、信州まつもとエリアは、間違いなく「空港のある街」である。もちろん、頭の中では、そのように理解できているのであるが、これまで体感として腑に落ちるまでにはいたらなかった。

所属する大学が東京にあることもあり、航空機での移動はこれまで、羽田か成田を起点としてルートを組み立てていた。特に羽田の場合は、総旅客者数で世界トップ5以内にランクインする空港だということもあり路線の種類も便数も豊富な上に、都心から電車で30分という好アクセスも手伝い、不便さを感じたことがなかった。早い話、これまで羽田の代替空港を検討する必要に迫られたことはなかったのである。

ところが、新型コロナウイルスは、私の事情を一変させた。授業が原則としてオンラインになった上に、東京との往来を極力減らそうとしていることもあり、突如として「空港のある街」としての信州まつもとを強く意識するようになった。そしてついに、先日、この土地に移住を果たして9年目にして、初めて「信州まつもと空港」からのフライトを経験した。

一言で言って素晴らしい体験だった。中心市街地から直行バスで30分の場所にあるアクセスの良さ。小さな空港だけあって、チェックインも、保安検査も非常にスムーズ。対応して下さるスタッフの方々の対応も、ビックリするくらいに丁寧だった。一日あたり20万人規模の旅客者数をさばく羽田空港では、およそ得がたい体験だと思う。

もう一つの特別体験は、この空港がスカイパークと一体になっていることでもたらされた。空港のある場所というのは、世界的に見て多くの場合、まわりに何もないか、工場地帯か、あまり治安の良くない地域にあるということで相場は決まっている。機内からの景色は「グレー」という印象である。その点、信州まつもと空港は、「グリーン」な美しさがある。さらに、離陸に際して、スカイパークに集う人々が飛行機に向かって笑顔で大きく手を振ってくれる。世界中で、数多くのフライトを経験したが、これは嬉しいサプライズだった。

信州まつもとは、「空港のある街」である。他の地域と、また、世界とつながる上で大きなアドバンテージとなる。自律的に自立した地域でありながら、他の地域ともしっかりと結ばれ、お互いに協調していく。自律分散協調型の社会モデルにとって、「空港のある街」が持っているポテンシャルは、とてつもなく大きい。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)