アラブ・イスラーム圏への「入り口」

モロッコから約1週間の滞在を終えて帰国してきた。モロッコは、地中海と大西洋に面した北アフリカの王国である。北部にあるジブラルタル海峡を越えれば、そこにはスペインが広がっている。アラブ・イスラーム圏の西端という位置づけであるが、かつてフランスの植民地であったことと、その地理的特徴からヨーロッパ文化圏の影響も色濃く受けている。今回の滞在目的は、来年度担当予定の「フィールドワーク」の授業をモロッコで行うための、事前視察およびパートナーとなる大学等関係機関との調整作業であった。

19世紀はイギリスの時代、20世紀はアメリカの時代だったとすると、果たして21世紀はどのような時代になるのかという問いがある。中国がアメリカにとって変わるのではないかとか、注目すべきはインドであるとか、様々な議論があるが、21世紀の地球社会を生きていく上ではこれらの国々に加えて、イスラーム圏についての理解も欠かせない。考えてみれば、21世紀という時代は、その最初の年である2001年に、「9・11同時多発テロ事件」がアメリカで発生するという形で幕を開けている。

現在、世界人口の約4人に1人はイスラーム教徒であるが、出生率が高いこともあり、30年後の2050年には、世界の約3人に1人はイスラーム教徒という時代がやってくる。また、今世紀末には、イスラーム教徒の数がキリスト教徒の数を追い抜き、世界最大の宗教になるとも見積もられている。様々な意味で、ムスリムは我々の「隣人」という時代なのである。イスラームにとって、アラビア語は特別な言語である。聖典である『クルアーン』はアラビア語で書かれている必要があり、翻訳されたものは、「クルアーンの注訳書」という扱いになってしまう。したがって、アラブ・イスラーム圏は、イスラームの中心地という側面も持っている。

筆者の所属する「地球市民学科」では、これまでもカリキュラムの中でアラブ・イスラーム圏をカバーしたいと考えてきたものの、筆者が数年を過ごしたシリアを筆頭に、「アラブの春」以降、学生を連れてのプログラムを行いにくい環境にある。その点、モロッコは、比較的安定の度合いが高く、歴史的にも文化的にもアラブ・イスラーム世界への「入り口」として適している。21世紀を生き、新しい時代を切り拓いていく「地球市民」が、このモロッコでのプログラムから1人でも多く輩出されることを、心から願っている。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)