VUCAワールドを生きる

「先が読めない時代」だと言われる。人為的な営みの延長線上にある予期せぬ衝撃に襲われることもあるし、地震や風水害など天災に遭遇する可能性も高まっているように感じる。福島の原子力発電所事故に関する事故調査・検証委員会の委員長を務め、「失敗学」を提唱する畑村洋太郎先生(東京大学名誉教授)は、事故から得られた知見として「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる」という点を指摘する。世界は今、私たちに「想定外を想定する」ことを要求し始めている。

こうした世界を表す言葉として、「VUCA」という用語が注目されるようになっている。VUCAとは、不安定で変化が激しく(Volatility)、先が読めず不確実性が高い(Uncertainty)、かつ複雑で(Complexity)、曖昧な(Ambiguity)世の中を指し示す言葉で、それぞれの頭文字からなっている。このコンセプトは、1980年代に提唱されたものであり、はじめのうちは米軍を中心に軍事用語として用いられてきたが、2010年代に入るようになって、ビジネスの世界でも用いられるようになっている。

VUCAワールドでは、ある目標を定め、目標達成に向けて一直線に突き進むという「直線的」な問題解決法が機能しにくくなる。ある目標をたてた前提そのものが、簡単に変化してしまうためである。当然、「1つの正解」が存在するわけもない。ただし、そんな中でも的確な判断を積み重ねていくことが要求される。

こうしたVUCAの世界を生きていくためにはどのような能力が必要で、それはどのようにしたら伸ばすことが出来るのだろうか。これが、今、教育の世界に突きつけられた課題となっている。この点OECD(経済協力開発機構)は、プロジェクトチームの報告書において、「新たな価値を創造する力」、「対立やジレンマを克服する力」、「責任ある行動をとる力」が重要であると指摘する。

これらは伝統的な学校教育が、想定してこなかった能力である。果たして、我が国の公教育は、VUCAワールドにおいてもなお、新しい未来を創造していくことのできる子どもたちを輩出することができるだろうか。「学都松本」が、この次の時代も「学都」であり続けるためには、この変化に対応していく必要があるということでもある。変化は、怖れるためにあるのではなく、楽しむためにある。是非、勇気を持って新しいチャレンジに向き合いたい。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)