「しなやかな社会」への技術と決意

フィリピンのマニラに滞在している。マニラに本部があるアジア開発銀行で開催されている、「クリーン・エネルギー」に関する国際会議に出席するためである。会議には、70を超える国と地域から多くの関係者たちが出席している。

「クリーン・エネルギー」とは、いわゆる再生可能エネルギーのことであり、大気汚染等を伴う化石燃料に頼ったエネルギー供給システムとの対比で用いられる用語である。会議では、技術的な問題、政策的な問題、投資環境に関する問題など、幅広いテーマで議論が行われているが、多くのセッションで耳にするのが「レジリエンス」というキーワードである。

レジリエンスという単語は、回復力、復元力、弾力性などと訳されることが多い。竹に力を加えても簡単には折れることがないように、外からのストレスや、本来想定されていないような力がかけられたとしても、折れたり、壊れたりしてしまうのではなく、元に戻る力を内部に宿しているというイメージである。自然災害を含め、いつ予期せぬ出来事に遭遇するとも限らない中、これからの社会をデザインしていくに際して、いかに「レジリエントな社会(=しなやかな社会)」へとシフトしていくのかは、先進国・発展途上国を問わず、共通のテーマとなっている。

中央集権的なエネルギーに過度に依存することなく、それぞれの地域が地産地消型のエネルギー供給システムを備えることは、各社会の「しなやかさ」の向上に役立つ。中でも都市のエネルギーシフトは、主要課題である。世界人口の約55%は都市に住んでおり、エネルギー消費の約70%は都市で行われている。大気汚染に悩まされている都市も多く、都市がクリーン・エネルギーへとシフトすることは、人びとの健康増進とも直結する。

ほとんどの国で、今や「最も安いエネルギー」が再生可能エネルギーという時代である。不測の事態に強い「しなやかな社会」は、エネルギー供給を含め、どれだけ地域が自分たちの足で立つことができるかにかかっている。その点、信州エリアは、自然環境に恵まれている。今、問われているのは、その豊かさを「次の時代の社会作り」に生かせているかという点にある。技術はすでにそこにあり、足りないのは決意だけという状況でもある。テクノロジーと自然との掛け合わせの先にある「しなやかな社会」こそが、私たちが次の世代のために残すべき未来であると信じている。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)