電気も想いも地域で回す

循環は、これからの時代のキーワードになるだろう。対極にあるのは、大量生産、大量消費、大量廃棄という、一方向に流れる経済活動である。この点、たとえば、江戸時代は基本的に循環型社会が構築されていた。そうでなければ、やっていくことができなかったからである。だからといって、「江戸時代に戻れ」という話ではない。21世紀には21世紀なりの「循環」の形があるはずだ。

注目しているのは「地域電力」の取り組みである。私自身、今年から東京都板橋区を中心に事業展開する地域電力である「めぐるでんき株式会社」にアドバイザーという肩書きで関わらせてもらっている。この会社は、発電事業として、地元の小中学校の屋上に太陽光パネルを設置するなど、再生可能エネルギー資源を使った「板橋区産」の電気の生産を行う。生産量の関係で、すぐに「100%板橋産」とはいかないが、この会社と契約した家庭は、「板橋産」の電気を使いながら生活することになる。どこか遠い場所の大規模な発電所で作られた電気を使うのではなく、「地元の電気」を地元で消費する、エネルギーの地産地消を目指している。ここまでは、わかりやすいし、最近よく聞く話だと言えるかもしれない。

この会社がユニークなのは、その先である。それが「めぐるスイッチ」という取り組みである。ここには地元の課題を具体的に解決しようと、地域活動を行う有志たちによるプロジェクトが登録されている。リノベーションを通じた観光事業によって地域活性化を目指すプロジェクトや、つながりが希薄になりがちな都会で多世代交流ができる居場所を構築するプロジェクトなど、地元の有志が多種多様なプロジェクトを立ち上げている。各プロジェクトには、「オッケー」ボタンと、「スイッチ」ボタンがついている。「スイッチ」ボタンを押して、電力契約をこの会社に切り替えると、支払う電気料金の一部が、自分の応援したいプロジェクトへと支払われる仕組みである。電力切り替えをしなくても、「オッケー」ボタンでプロジェクトを支援することもできる。電気だけでなく、地元の人たちの想いまでも、地元で循環させていこうという試みである。

再生可能エネルギーのポテンシャルは、自然環境豊かな信州では極めて高い。蓄電施設を併設することで、災害時のバックアップ電源ともなり得る。「地元の課題は地元で解決」。松本で、同様の試みができないか、真剣に検討をはじめている。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)