戦略的なダウンサイズ

日本は、すでに「縮小していく社会」を歩み始めている。人口は、2008年をピークに、減少局面に突入した。現代社会の根幹となるエネルギー源である原油消費も、2005年のピークに比べると、約7割の水準にまで落ち込んでいる。経済指標は辛うじて過去の水準を保っているものの、人口もエネルギー消費量も減少を続けている中で、再び「右肩上がり」の成長を目指し続けることには無理がある。この現実とどのように向き合うかは、国家のみならず、市町村などの基礎自治体や日々の生活を営む地域コミュニティのあり方も含め、極めて重要な問題である。

人類は、化石燃料時代が始まるようになって以来、年々、エネルギーの使用量を拡大させてきた。特に、主要なエネルギー源が石炭から石油に置き換わる、第2次世界大戦後は、爆発的にエネルギー使用量を拡大させてきた。人類は、産業革命以来、常に「拡大」していく時代を生きてきた。もちろん、日本も例外ではなかった。今度は、そんな日本が、世界に先駆けて「縮小局面」の先頭を走っている。

縮小局面で求められるのは、「戦略的なダウンサイズ」という、人類史上ほとんど成功したことのない難問だ。過去、この地球上には、ローマ帝国を含め、栄華を誇った文明はいくつもあったが、ことごとく縮小局面のマネジメントに失敗して崩壊してきた。拡大局面の社会デザインに比べ、縮小社会の社会デザインは、それほどまでに難しい。困難ではあるが、これからの日本が、必ず乗り越えなくてはならない課題である。

拡大局面から縮小局面へと「ひっくり返る世界」では、価値観もひっくり返る。拡大局面では、大都市はますます大きくなっていった。人びとは、地方を出て、大都市を目指した。「東京一極集中」という言葉があるが、集中という現象は、拡大局面の社会に見られる特徴である。集中の反対は、分散である。縮小局面では、社会デザインの発想として、分散はキーワードとなるだろう。そこでは、「大都市をやめ」自分の生活拠点をダウンサイズするという動きが顕在化することになる。

世界的に見れば、大都市から地方へという現象は、すでに確認されはじめている。拡大局面の主役が大都市だったとすれば、縮小局面の主役は地方になるだろう。「戦略的ダウンサイズ」のモデルを、どう構築するか。松本エリアが、世界に先駆けて新しいモデルを示していく可能性は十分にある、と信じている。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)