旅のススメ

「旅のススメ」『市民タイムス』2018年5月4日。

今年も「ゴールデンウィーク」の季節がやってきた。外国の友人からはよく、「何それ?」と不思議がられる日本独特の制度ではあるが、気候的にも絶好の行楽シーズンであり、大いに楽しむべきだと思っている。この時期、長期休暇を利用して「旅」に出かける人も多いはずである。ここ信州も、観光客で大いににぎわう。

家族そろって旅に出かけるとなると、それなりに出費もかさむものであるが、今回は「旅のススメ」として、多少無理してでも旅に出た方がよいと考えられる研究結果を紹介してみたい。「お金と幸福」に関する心理学的研究は数多いが、カナダにあるブリティッシュコロンビア大学のエリザベス・ダン博士らが行った「お金の使い方」に関する研究は、実に興味深い。彼女たちの研究テーマは、「どのようなお金の使い方が、人びとの幸福感を増すのか」というものである。

研究結果によると、①経験を買う、②ご褒美にする、③時間を買う、④先に払って、後で消費する、⑤他人に投資するという5つのお金の使い方が幸福度を増大させるというが、このうち第1の法則である「経験を買う」という点に注目してみたい。旅をしても「モノ」が残るわけではないが、「経験」という形で自分の中に目に見えない何かが蓄積される。この点、心理学的実験によると、物質的なもの(美しい家や万年筆など)を買うよりも、経験(旅、コンサート、特別な食事など)を買う方が、幸福度が上がることが確認されているという。また、経験的な買い物に対する満足感は、時が経つにつれて増していく傾向があるのに対し、物質的な買い物に対する満足感は、減少する傾向があることも確認されている。さらに、経験については、「最悪の部分も、その経験の全体的評価を下げる材料にはならない」という。旅の途中で起きた「ちょっとしたトラブル」でも、後から思い返すと「いい思い出」となることは、誰しもが経験したことがあるだろう。

不確実な時代において、もっとも割のよい投資は「自己投資」だと言われている。モノは壊れたり失ったりするが、自分の中に蓄積された何かは、誰も奪い去ることができない。「やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がよい」という格言もある。旅に出かけるには最適な季節がやってきた。ここは是非、あえて「経験を買ってみる」のはいかがだろうか。最新の科学によると、そんなお金の使い方が、自身の成長を促し、幸福度を上げてくれるはずである。