「ギフト」が巡るコミュニティ

昨年末、年内最後の散髪に美容院に行くと、店主から1枚の手書きの紙を手渡された。月替わりキャンペーンについての説明だったが、タイトルに「ニチカの給付金的なやつ!」とある(ニチカというのはお世話になっている美容院の名前)。内容を読むと、「私的な給付金のような形で500円を渡すので、その500円をあなたの地元で使って下さい」という趣旨の説明が書かれている。使用条件は2つあって、1つ目は「あなたの思う好きな場所、味、物、人、空気……にこのコインを使うこと」、2つ目は「お支払いの時にあなたのそのお店に対する共感や好きな気持ちを声に出して(どうしても恥ずかしければ心の中で)伝えること」だという。こうした趣旨に賛同してくれる人に対して「給付金的に」500円を渡すというキャンペーンだった。

「経済合理性」の観点からは一見理解し難いかもしれないが、実は、人類はさまざまなコミュニティにおいてこうした「贈与経済」的な仕組みを活用することで共同体を維持してきた歴史がある。原始的な狩猟採集共同体では、狩りに成功した人が獲物を独占するのではなく、狩りに失敗した人を含め獲物を共同体メンバー全員に均等に分け与える(贈与する)という慣習を目にすることがある。イスラームの場合は、困窮者を助けるために余剰財産の一部を贈与として共同体に拠出する、ザカート(喜捨)と呼ばれる行為が、5つの義務のうちの1つに定められている。

資本主義は、主に先進国の人々に豊かな生活をもたらしたかもしれないが、近年の研究は、このシステムが「格差の拡大」とセットであることを明らかにしている。この問題に気がついた哲学者や経済学者の一部は、「資本主義の限界」を指摘しはじめている。筆者は、この歪みを埋めるカギは、「ある程度閉じられたローカル経済」の中に、テクノロジーの後押しを得ながら相互扶助や贈与経済の仕組みを組み込むことだと考えている。こんな問題意識から、筆者が中心となって実証実験を始めたのが「贈るように払おう」というコンセプトを実装した信州まつもとエリアの電子地域通貨「AC pay」である。

AC payを使うと、冒頭のキャンペーンと同様のことができるようになる。「ギフト」がめぐる街は、笑顔と感謝があふれる街でもある。共感と感謝に支えられたローカル経済における「お金」は、人を幸せにするための手段になり得ると信じている。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)