アメリカの存在感

「アメリカの存在感」『市民タイムス』2017年1月4日。

学生時代、長期休暇(夏休みの2ヶ月と春休みの2ヶ月の合計4ヶ月)のほとんどをアメリカで過ごした。そうしなければならなかった特別な理由があったわけではなく、当時の私は、ただただアメリカの魅力に引き寄せられていたのだと思う。とにかくいろいろなアメリカを見ようと大都市から田舎街まで、車、バス、鉄道、飛行機と、様々な交通手段を使いながら旅をした。

歴史と伝統を感じさせる東海岸の街も好きだったが、自由と新進の気風に溢れている西海岸の街も好きだった。カナダやメキシコに向けて、「陸路で国境を越える」という経験も新鮮だった。思い返してみると、私に「世界への興味」を強烈に植え付けてくれたのは、間違いなく当時のアメリカだった。

中でも自分にとって特別な場所は、ニューヨーク・シティであった。初めて訪れたのは、交換留学生としてアメリカの高校に通っている時であったが、ハドソン川を越えてマンハッタンに入ったとたんに、この街の持っているエネルギーに圧倒された。街全体に、エネルギーがみち溢れていたのである。世界的な名画を数多く所蔵する美術館の前の道で偽物の絵画を売る人がいるかと思えば、年収何億ともらう人で溢れるウォール街のビルの軒先でホームレスが物乞いをしているといった具合に、どんな人も拒まず何者でも受け入れてくれる、「何でもあり」のこの街の懐の深さに魅了されていた。

転機は、2001年9月11日に訪れた。ハイジャックされた飛行機がワールド・トレード・センターに突っ込み、110階建てのビルが崩れ去った。「世界を理解したい」と思っていた私は、この事件をきっかけに「アメリカからだけ世界を眺めていてもわからない。イスラームから世界を眺めたら何が見えるのだろう」との思いと共にシリアでの留学生活をスタートさせた。それ以来アメリカを訪れる回数はめっきり減ったが、青春時代の多くを占めるアメリカへの想いは今でも特別なものがある。

2016年のアメリカ大統領選挙は、このニューヨークを本拠地とする二人で争われた。事前の予想を裏切り、勝ったのはトランプ氏であった。2017年、いよいよトランプ大統領のアメリカが始まる。覇権国としてのアメリカに翳りが見えるとはいえ、アメリカの動向は世界に大きな影響を与え得る。混迷する世界の行く末は、トランプ氏のアメリカ次第でもある。私にとっても、世界情勢にとっても、アメリカの存在感はまだまだ大きなものでありそうだ。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)