「リミッター」を外してみる

「『リミッター』を外してみる」『市民タイムス』2016年9月24日。

学生たちと「沖縄八重山諸島フィールドワーク」ということで、西表島・石垣島に行ってきた。テーマは、「足下の自然を知る」ことを皮切りに「自然と自然」「人と自然」「人と人」とのつながりについて深く掘り下げながら考えようというものである。

特に注目したのは「水」である。この地球上で水は循環している。山に雨が降り、その水が集まって川となり、海に流れ込み、海の水が蒸発して雲になると、また山に雨を降らせる。われわれ人類は、この過程で自然界から水を集め、溜め、使い、また自然界へと流している。水を通して海と山はつながっており、海で起きている問題の原因が山で起きている変化であることも多い。もちろん、「現代文明が作り出す社会」を通過した工業廃水、生活排水も問題の原因となり得る。

紙の上での知識としてこれらを理解するのではなく、体を通した「実感」として理解し、次の時代の社会デザインを考えるために、事前学習として東京の目黒川沿いを上流に向かって歩いたり、逗子にて海から川をさかのぼって源流まで山登りをしたりと都市およびその近郊を流れる水への理解を深めてきた。そして今回は、沖縄の離島にて手漕ぎのシーカヤックを使った「ちょっとした冒険の旅」を行った。

舞台に選んだのは西表島。初日は、マングローブの生い茂る川の河口から源流まで片道8キロ(往復で約16キロ)の行程を人力で漕ぎ切った。2日目は、同じ川の河口から海に流れた水を追って離島の無人ビーチまで、途中で定期船の航路を横切りつつ、やはり片道約8キロ、往復で約16キロという海の旅であった。普段は都会暮らしの女子大生たちであるが、「きつ〜い」「もうダメ〜」「手が痛くてもう漕げない〜」などと言いつつも、全員が無事に全行程を人力で漕破することに成功した。ほぼ山手線一周の距離を、水をめぐって手漕ぎ旅したことになる。

学生たちも多くを感じたようである。体力的には相当疲れているはずであるが、どの学生もとびきりの笑顔を見せていた。「自分には無理」とどこかで勝手に自分にはめていた「リミッター」を超えた先にある達成感が、ある種の自信と喜びをもたらしたのだろう。われわれは、しばしば勝手に自分の限界を設定してしまうが、たまにはその「リミッター」を意図的に外してみてはいかがだろう。そこには、リミッターの先に行かなければ決して出会えない世界が広がっていることがある。そんなことを感じた旅であった。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)