ローカルの価値

「ローカルの価値」『市民タイムス』2018年8月9日。

ハワイ島に滞在している。ハワイ島の印象はと言えば、とくかく広く、ワイルドだというものである。他のハワイの島に比べて、圧倒的に大きい。また、むき出しの溶岩をいたる所で目にすることになるし、スケールもダイナミックである。ハワイらしい心地よい風というよりも、突風が吹き抜けることもある。

ハワイといえば、日本人にもおなじみの観光地である。世界中から観光客が押し寄せる。とはいえ、多くの場合、その訪問先はオアフ島であり、中でも観光客はワイキキエリアに集中する。ハワイを訪れる度に感じるのは、ハワイの中でもワイキキエリアはある種「特別な場所」であって、ほとんどの場所は「アメリカの田舎街」と形容するにふさわしい風景が広がっているということである。

それだけに、ハワイでは「ローカル」という言葉が似合う。観光にローカルを積極的に打ち出しているというのも、ハワイの特徴であろう。どの島でも農業は盛んに行われており、ファーマーズマーケットもいたるところで開催されている。地元産の野菜や果物を、地元の農家さんから直接買って食べるというのは、旅の楽しみの1つでもある。地元のスーパーマーケットやレストランに行くと、「マウイ島産のマウイオニオン使用」であるとか、「ハワイ島産牛肉100%使用」という具合に、ブランド化したローカルを数多く目にすることになる。ハンバーガー屋さんに行っても、メニューに「地元のパン屋さんが焼いたバンズを使用しています」と当たり前のように書いてある。

これは、1つの運動にもなっている。ハワイでは、「地元に想いを馳せ、地元産を買おう(think local, buy local)」と書かれたステッカーを目にすることがある。地産地消により環境に与える影響を最小限にとどめようとする狙いもあるが、地元の経済をきちんと機能させ、コミュニティを維持させるために有効な手段であるという点も意識されている。地元で消費を行っても、全国チェーンで買えば、そのお金は島の外に出て行ってしまうが、小規模なローカルのお店でお金を使えば、そのお金が地元に留まり、他のローカルビジネスにも好循環をもたらすという研究成果もある。地元コミュニティの足腰は、消費者のちょっとした心がけと、消費行動によって、強くも弱くもなるのである。「ローカルの価値」をどう位置付け、どう実現させるか。ここ信州でも、真剣に考えるべき課題だろう。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)