高等教育の再創造

「高等教育の再創造」『市民タイムス』2018年7月8日。

変化の激しい世の中において、大学はどのような能力を備えた人材を社会に送り出すべきか。そして、これから大学で学ぼうとする人たちは、どのような能力を身につけておくべきなのか。この問いを正面から受け止めつつ、サンフランシスコで立ち上がった大学が、今、世界的に注目されている。名前を、ミネルバ大学という。設立は4年前であり、まだ、卒業生を輩出してもいない新しい大学であるが、すでに、世界的に有名なハーバード大学よりも入学するのが難しいと言われている。世界中から約20000人が受験するものの、合格率は1.9%という狭き門だ。

全寮制のこの大学は、はじめの1年間をサンフランシスコで過ごすものの、2年目以降は、ブエノスアイレス、ベルリン、ロンドン、ハイデラバード、ソウル、台北など、学期ごとに世界中の都市を移動していく。1年間に2都市経験することになるので、卒業までに7ヵ国7都市での生活を経験することになる。全てがユニークなこの大学は、授業のやり方も変わっている。講義形式の授業を自前で提供することがなく、全てがセミナー形式の少人数授業で、しかも、オンラインで行われる。理由は単純で、そちらの方が教育効果が高いからだという。ある研究によれば、講義形式の授業では、半年後には約9割を忘れてしまうのに対して、セミナー形式でアクティブ・ラーニングをさせると、半年後でも約7割が何らかの形で残っているという。

結果も出はじめている。アメリカで行われている学習効果を測るための全国テストを受けさせると、ミネルバ大学の学生は、入学時ですでに大学4年次生のトップ22%相当に匹敵し、1年生終了時点では、他大学の4年次生のトップ1%レベルにまで達するという。インターンを受け入れた企業からの評価も高く、90%以上の企業が、他大学から過去受け入れた学生よりも優秀であったという評価を与えている。

オックスフォード大学が行った研究によると、今後、10〜20年の間に、アメリカの総雇用のうち約半分が、人工知能等の発達によって自動化される可能性があるという。確かに、暗記や計算でコンピュータに勝つのは難しい。こうした背景をふまえ、ミネルバ大学が目指しているのは「高等教育の再創造」である。「変わりゆく世界」の影響は、いよいよ高等教育の世界にもやってきた。難しい時代であることには違いないが、それだけに挑戦する価値もあるというものだろう。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科教授=松本市)