台湾音楽外交

「台湾音楽外交」『市民タイムス』2017年9月26日。

東アジア情勢がきな臭い。盛んに報道される北朝鮮をめぐる動きのみならず、この地域にはいくつもの火種が存在する。日中関係も、日韓関係も、このところ良好とは言い難い状況が続いている。暗いニュースばかりのこの地域で、比較的明るい話題は台湾にまつわるものが多い。

第二次世界大戦で日本が敗戦するまでの50年間、日本は台湾を統治してきた歴史がある。それにもかかわらず、台湾には親日家が多いことで知られている。筆者も、実際に日本統治時代に日本語で教育を受けた年配の男性たちから、何度となく「日本はすごいんですよ」「そのすごさに自覚的になりなさい」「日本人であることに誇りを持ちなさい」と説教を受けた経験がある。台湾旅行をする中で、同様の経験をした人も多いに違いない。

ところが、残念なことに、台湾の人びとの日本に対する思いはこれまで主に「片思い」であった。台湾の人が日本を思うほど、日本人が台湾を意識してきたわけではなかった。「相思相愛」に向けた大きな変化は、3.11によってもたらされた。各国から寄せられた義捐金のうち、最大の送り先は、米国でも中国でもなく、日本と正式な外交関係のない台湾からのものだったのである。このニュースは、主に日本の若者を中心に、台湾への関心を高めることとなった。実際に訪台する日本人も年々増加傾向にある。

そんな台湾を先日訪問する機会があった。特に印象深かったのが、ゼミの学生と共に訪れた「羊毛とおはなカフェ」である。「羊毛とおはな」は、日本の音楽アーティストで、台湾でも人気が高い。3.11の義捐金のお礼として台湾で放映したコマーシャルソングにも、「羊毛とおはな」の曲が採用されている。ただ、悲しいことにボーカルの千葉はなさんは、病気のため若くして他界してしまった。「羊毛とおはなカフェ」は、そんなはなさんを偲び、遺志を継ぐ形で、台湾側のレコード会社によって設立された。

インタビューに応じてくれた台湾のレコード会社の方は、音楽を通した日台関係の発展の可能性について熱く語ってくれた。この先、これまで以上にインディーズを中心に日本の優れた音楽を発掘し、積極的に台湾で紹介していきたいという。多くの価値を共有しているにもかかわらず外交関係のない日本と台湾。そんな中、目立たないかもしれないが、音楽を通した外交は、両国間にしっかりとした根を張ろうとしている。「羊毛とおはなカフェ」は、その象徴的存在だと言えそうだ。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)