週末マーケット

「週末マーケット」『市民タイムス』2017年7月23日。

これまでに、世界中の多くの街を訪れる機会に恵まれてきた。旧市街、史跡、美術館、カフェ、レストラン、公園、劇場などなど、訪れるべき場所は多い。これらに加え、筆者の旅には、もう一つ欠かせない訪問場所がある。市場である。

生活に密着した市場から、観光要素の強い市場まで、実に様々な形態があるが、その土地の文化を知る上でこれほど興味深い場所はない。特に印象に残っているのは、かつて住んでいたシリアのアレッポにある市場(アラビア語ではスークと呼ばれる)である。日中の厳しい日差しを避けるために、石造りのアーケードで覆われたスークには、金細工の専門店、絨毯屋、民族衣装専門店、日用雑貨屋、香辛料屋、石鹸屋、肉屋、八百屋などが軒を並べている。常に活気に溢れるこの場所は、市民の生活を支えると共に、観光地としても特級の魅力を放っていた。

こうした常設のマーケットも魅力的だが、ヨーロッパなどでよく見かける週末マーケットにも独特の魅力がある。街のちょっとした広場に、週末になるとテントがひしめき合うというスタイルもあれば、屋根付きの建物に週末だけ市が立つというスタイルもある。オーガニックの野菜やフルーツ、チーズやハチミツ、手作りの工芸品、食べ物や飲み物の屋台などが集まってくる。モノと共に、人も集まる。お店の人と交流しながらの買い物をしつつ、おつまみを片手にワインを楽しみ、語り、笑い、新たな交流が生まれている。

もっとも昔はどの街にもこうした市場はあったのだが、近代化の波と共にその役割をスーパーなどに奪われ、消えてしまったケースも多い。スーパーの便利さは否定しようもないが、こうしたマーケットだけが持つ魅力も捨てがたい。そこで、「もしも我が街松本に週末マーケットがあったら」という実験を、同じ思いを共有する有志と共にやってみることにした。

設定したテーマは「多文化と音楽」である。観光客が信州や松本に出会う場所であると共に、地元の人が世界中の文化に出会える場所でもある。さらなる付加価値として、「生の音楽の魅力」に気づける場所も同時に目指している。この実験的イベントを、「マツモト・サンデー・マーケット」(詳細は、このキーワードを入れてインターネット検索をして頂きたい)と名付けて、8月20日(日)に開催する。暑い夏の日曜日の一コマ。訪れてくれる人に、週末マーケットの魅力を感じとってもらえる場所になることを願っている。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)