街とグリーンな公共財

「街とグリーンな公共財」『市民タイムス』2017年4月12日。

先日、西オーストラリア最大の都市であるパースを訪問する機会に恵まれた。インド洋に面し、約200万人が暮らすこの街は、しばしば「世界一美しい街」と呼ばれることもあり、移住先としても人気が高いという。

街に電柱や電線もなく、清掃も行き届いていて、治安も良い。中心街のビル群とウォーターフロントという景観に、青い空と輝く太陽という組み合わせは、確かに清潔感のある美しさを感じさせる。白い砂浜のビーチも無数に点在しており、住人にとって海は身近な存在となっているようだ。世界的な大都市と比べると文化面でやや刺激に欠けるという印象があるものの、全体として考えれば移住先として人気がある街だというのもうなずける。

そんなパースの美しさを一望できる場所がある。街の中心部に隣接する丘に広がる、巨大な公園、キングスパークである。どこまでも続く芝生の広場では、木陰で読書をする人、友達とのおしゃべりに興じる人、ピクニックを楽しむ人と、この街の住人たちが思い思いの時間を過ごしている。野外ステージや植物園もあり、外で映画を楽しむための設備も整っている。

おそらくこの街に住んだならば、数え切れないほどの回数を、この巨大公園で過ごすことになるに違いない。今回の滞在では、街の中心地に近く、不動産として価値が高いと思われる場所を、宅地として売り出すのではなく、公園という公共財として利用することの価値をイヤというほど思い知らされた。

思い返してみれば、同様の衝撃は、初めてニューヨーク・シティのセントラルパークを訪れた時にも受けた。世界で最も土地の値段が高い場所の一つは、ビルが建ち並ぶのではなく、一面が緑で覆われているのである。人々はジョギングや散歩、読書やピクニックを楽しむ。住人たちの心と体の健康維持に役立っているだろうし、充実した人生の一部として欠かせないものになっているだろう。しかも、タダときた!

資本の論理は、街の中心部の空き地を建造物へと変えてしまいがちである。そこからは金銭的な利潤が生み出される。他方、グリーンな公共財である公園は、金銭的な利益を生むわけではない(むしろ、維持管理に税金が使われる)が、街そのものの価値を上げると共に、その街の住人をより健康に、より豊かにしてくれる可能性がある。「世界一美しい街」が一望できるキングスパークの木陰にて、グリーンな公共財が持つ潜在的な価値に思いを馳せた、晩夏のオーストラリアであった。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)