知から智へ

「知から智へ」『市民タイムス』2015年8月30日。

約20日間、学生13名と共に台湾を訪問してきた。「フィールドワーク」という講義科目の一環である。主な訪問先は、台南、都蘭(台東郊外にあるアミ族の村)、台北の三カ所。同行した学生のほとんどは、初の台湾訪問であった。

台南では、国立成功大学の学生と1対1のペアを組んで街の奥深くにまで入り込むようなフィールド調査を行ったり、日本統治時代を生きたご年配の方々へのインタビューを行ったりして過ごした。週末には「リアル台湾」を体感すべく、台湾人家庭へのホームスティも経験する。都蘭では、台湾原住民であるアミ族と共に過ごし、台北ではジャーナリストやアーティストたちへのインタビューを行ってきた。

若者同士の交流にとって、国や言語や文化が異なることは、それほど大きな障害にならないようである。彼女たちの人間関係構築スピードは、実に速い。成功大学の学生とは、「友人になった証しをアートで残そう」と、日台の学生同士の話し合いを経て、巨大な半紙に水墨画と書道と折り紙を混ぜ合わせた共同アート作品を作り上げていた。また、都蘭では、同世代のアミ族の若者たちと飲食を共にしながら、輪になって歌い、踊り、大いに盛り上がっていた。大人にはなかなか真似のできない、学生ならではの国際交流の形だろう。

このようにして日々を過ごすと、20日間という限られた期間であっても、学生たちの現地への理解は飛躍的に深まる。学生たちの語る「台湾」が日を追うごとに、深く多面的なものへとなっていくのである。

台湾到着時には、「バイクの多さに驚いた」といった表面的な事象に関するコメントが多いのだが、数日経つ頃には、「家族間関係の日台相違」、「世代間で異なる対日感情の源泉」など目には見えない事柄について語りはじめる。台湾人学生と恋愛についても語り合うようで、「台湾人男性の優しさと日本人男性の優しさの質的な違い」について自説を披露してくれる学生まで出てくる。

現地の人々と等身大のスケールで、直接関わり合うからこそ、初めて見えてくることは多い。学生たちのコメントの変遷に、書物やネットを通して得た様々な知識の断片が、五感を通して得られた体験・経験と混じり合うことで、確かな何かへと変わっていく様子を感じる。「知」は「智」へと変化し得るのである。インターネット時代だからこそ、フィールドで本物に触れることの意義は、今後ますます高まっていくことになるに違いない。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)