暮らすように旅をする

「暮らすように旅をする」『市民タイムス』2015年7月28日。

先日、調査のためスペインを訪問した。「訪問先の今」を肌感覚で理解するために、私が大切にしているのは、現地の住人目線で街を眺めるという姿勢である。そのため、頼りになる友人が現地に住んでいれば、幾ばくかの日本土産を手に転がり込んで、あえてホームステイさせてもらうことがある。

ホームステイするからには、家の仕事も進んで手伝う。ゴミの出し方1つとっても、それぞれの国や街の常識が違っていて勉強になる。料理当番を引き受けることもある。そうすれば、地元のスーパーマーケットや市場の様子を知ることができる。友人の友人なども招待して、ワインを片手にホームパーティーでもすれば、現地人の関心事や本音を知りつつ、新たな友人を増やす格好の機会となる。なにより、旅先での思い出深い一夜になること請け合いだ。

とはいえ、そうそう都合良く旅先に友人がいるわけもない。そんな時に役に立つのが、「エアビーアンドビー」(Airbnb)と呼ばれるサービスである。これは、自分の家やアパートを自分の使わない期間貸し出したいオーナーと、それらを借りたいという人とをマッチングさせるサービスである。

子どもが独立して部屋が余っていたり、旅行中の留守宅を誰かに貸そうなど、動機は様々であるが、都市には意外と空き部屋が多い。貸し手の側は、自分の旅行期間中、自宅を貸し出せば旅行資金の足しになるし、借りる側も、ホテルよりも格安な価格で、キッチンつきの広い部屋に滞在することができる。「疑似居住体験」のハードルは、情報通信技術の発達で劇的に引き下げられつつあるのだ。

今回のスペイン訪問では、私も、マドリッドでの1週間をエアビーアンドビー経由でアパートを予約し滞在することにした。選んだのは、現地の友人が最近面白いと言っていたラバピエ地区。確かに、アフリカ諸国やアラブ圏からの移民たちと、アーティスト気質のスペイン人たちが共存し独特の文化を育む魅力的な場所であった。

たった1週間とはいえ、地元の商店で食材を買い、近所のカフェで朝食を楽しみ、地元のバルで現地人とレアルマドリードの試合を見ながら盛り上がったりしていると、ホテル滞在では決して得られないような街への愛着が湧いてくる。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とも言うし、「案ずるより産むが易し」とも言う。この夏の旅行は、思い切って「暮らすように旅をする」にチャレンジしてみてはいかがだろう。

(やまもと・たつや、清泉女子大学文学部地球市民学科准教授=松本市)